Brian May使用機材
本ページにはPRが含まれています
アーティストのペダルボード研究第5回、今回はQUEENのギタリスト、ブライアン・メイの使用機材を研究していきたいと思います。
ブライアン・メイといえば何と言っても自ら製作したギター、Red Specialによって奏でられる唯一無二の個性的なサウンドです。世界に一本しかないレッドスペシャルにより他とは一線を画す多彩かつ特徴的な音色はクイーンの美しく重厚な楽曲の要となっています。
また、ディレイやハーモナイズを駆使したサウンドなどエフェクト面でも画期的な技術を投入しており、サウンドメイクも大変興味深くお手本と言えます。
プレイ面では歌心のあるリードプレイと、歌の合間に入れる合いの手(オブリガード)の名手の一人と言えるでしょう。たとえ一瞬であっても「あのフレーズが無いと楽曲が成り立たない」ような数々の名演を生み出しています。
そんなBrian Mayサウンドですが使用する機材は時代により微妙に変化しつつも個性的なスタイルゆえ、基本の軸となるメインの部分は常に一貫性を持っています。それはやはり世界に一本のレッドスペシャルを筆頭にアンプはVOX AC30そして、それらを繋ぐトレブルブースターというスタイルです。
特にギターに関しては(ごく稀に別のギターや80年代以降はレプリカもライブで使用しましたが)基本的にライブ、レコーディングではほぼレッドスペシャル1本であるため、まずはこのブライアンメイサウンドのメインの中のメインであるRed Specialから研究してみたいと思います。
Red Special
レッド・スペシャルはブライアンが14歳の時にエンジニアだった彼の父ハロルドと共に約2年の歳月をかけて製作されました。完全なオリジナル製作のため他のギターには見られない構造、木材やパーツが用いられています。
ギター本体の材としてメインに100年物の暖炉から切り取られたホワイト・オークが使われています。(オークは落葉樹である楢の一種で高級家具などに使われますが一般的にギターに使われることはまずないようです。)
レッド・スペシャルのボディー構造は二層構造になっているようですが下層の中心部に非常に硬く重いホワイト・オークを使い、その周りを柔らかい集成材で挟む形になっています。(上層部の一部にもホワイトオークが使われているようです。)さらにトップ・バック材としてマホガニーの板で挟み込みボディーサイドもマホガニーで囲っていく構造のようです。スイッチ類やボリュームなどパーツを組み込むためのスペースが広く取られておりセミホロー構造のようになっています。
一般的なギターのようにピックガードに部品を取り付けるのではなくパーツ類は全てボディー側に直付けされているので、その辺りもセミホローでありながら大音量でもハウリングを起こしにくい要素の一部かもしれません。
ネックは指板にもホワイト・オークが使われているようですが黒に塗装され更にクリアで仕上げているようです。開放弦ポジションとして一般的なギターでは見られない0フレットが打ち込まれており、総フレット数も24フレットと、ハイポジションでより高い音域までカバーできる設計になっています。
ペグにはシャーラーのロトマチックが使用されており、ヘッドにはほとんど角度が付いていないようですがアーミング時にチューニングを狂いにくくする要素があるようです。ストリングスガイドも無いことから緩めのテンションで弦が張られていることが伺えます。この辺りもレッド・スペシャル独自のサウンドを生み出す要素の一端と言えそうです。
ボディとネックのジョイントは基本的にはセットネックですが強度を上げるため1本だけボルトを使っています。セットネックとボルトオンネックのハイブリットという他に類をみない方式はオリジナルだからこそ成し得る独自性と言えます。
ネックの接合部分はリアピックアップ手前までボディに食い込む構造となっていて、これもレッドスペシャルの鳴りを生み出す秘訣となっているようです。
このためセンターピックアップとフロントピックアップはネックの構造材の上にマウントされる形になります。
他にもレッド・スペシャルにしかない重要な要素として挙げられるのが独自のトレモロユニットです。
※画像は海外で市販されているレッドスペシャルレプリカ用のトレモロユニットです。
先端がナイフのように加工された金属プレートやスプリング2本を用いて揺れを制御する独自構造の仕組みですが、ギターの鳴りを妨げることなく軽いタッチで操作できチューニングも狂いにくいという大変優れた装置のようです。このトレモロプレートは個別の木材に取り付けられておりトレモロユニット構造一式としてボディに組み込まれているようです。
※トレモロの取り付け構造イメージイラスト
構造が複雑で量産に向かないため他のギターにはあまり採用できないレッドスペシャルならではの仕組みといえるでしょう。(本家レッド・スペシャルのスプリングにはパンサー1928というオートバイのバルブ用スプリングが使われているそうです。)
他のパーツ類を見ていくとブリッジもアルミ削り出しのオリジナルで独自の要素が取り入れられています。ブリッジの駒は各弦ごとに独立したローラー式となっています。このローラーのおかげでアーミングで弦が引っ掛る事が無いのでチューニングが狂いにくくなります。
ローラーは溝にはめ込まれており、はめ込む溝の位置を変えることでオクターブ調整を行います。ブリッジ本体はビスでボディに固定されていることから各駒の下にスペーサーを挟むことで弦高の調節を行うようです。
ブリッジパーツ一式も全て特注品のため、やはり量産には向かないパーツと言えそうです。
テールピースは先ほどのトレモロユニットの一部としてボディー上面に突き出ており、ここから弦を通していきます。弦を曲げて裏通しするタイプだと、やはりアーミング時にチューニングが狂いやすいようでレスポールに近いリアエンドとなっています。
表面から弦を張るトップロードにすることでサスティンを損なうことなくストラトのようなアーミングを両立するオリジナルモデルだからこそ出来る構造となっています。
ブライアンメイは弦になるべく角度を付けないようにするのがアーミング時の摩擦を減らす要素だと研究の末たどり着いたようで、ヘッド部にも角度がほとんどついていないのもこの一環でしょう。
資料の写真をよく見ると’85年頃まで1~3弦側の弦は一度テールピースを一周させて弦のエンドポール部に通しているのが分かります。この張り方で弦のテンションを調節していたのかもしれません。
ピックアップは当初自作のものを取り付けていたようですがノイズがあったためBurns Tri-Sonicというイギリスのギターメーカーのものを採用しました。
現在ブライアン・メイシグネチュアピックアップとして海外では販売もされているようですが国内ではあまり取り扱っていないようで輸入する必要がありそうです。
もともと世界に1本のレッド・スペシャルですが、これまで世界の様々なメーカーからレプリカモデルが作られました。サブのギターとして使用するためブライアン本人が様々なメーカーに依頼してきましたが、中には実際にステージで使用されるなどクオリティーの高いものもあります。その中でも日本メーカーKz Guitar Worksのものはブライアン本人も認めたおすすめのレプリカモデルです。
VOX AC30
アンプに関しても一貫してVOX AC30を愛用していおり、ブライアン・メイサウンドの重要な要素となっています。
ブライアン使用のAC30には改良が施されているのですが、AC30の基本的なサウンドはそのままに耐久性を上げるためのモディファイがメインのようです。
クイーンのデビュー前後からブライアンの機材エンジニアだったピート・コーニッシュ氏が最初に施した改良は、
- 整流管として使われている真空管をトランジスタに置き換える。
- さらにブライアンが使わないモードのプリアンプ管を取り外し、不要な電力流出を防ぐと同時に温度上昇も抑える事。
- 換気口を拡大し冷却性能と安定性を高め耐久性を向上させる。
- コンデンサなど一部パーツをハイグレードなものに交換。
など大きな変化が出るような回路そのものには手を加えていないようですが、電力流出や温度上昇を抑える改良だけでもパワー管のヘッドルームが大きくとれ、よりクリアなサウンドが得られるようになったようです。
’96年からエンジニアを担当したグレッグ・フライヤー氏の改良はAC30の基板をいったん取り外し、アップグレードされたパーツをハンドワイヤリングにより組み直した基板に入れ替えるというもののようですが、やはり回路設計そのものは、ノーマルのAC30とほぼ同じようです。基板の入れ替えにより好みのパーツに付け替えたり、レイアウトを変えることで排熱性能のさらなる向上やノイズ軽減にも役立ったと思われます。
以上のような改良を軸にトレブルブースターを組み込んAC30のブライアン・メイ、シグネチャーアンプAC30 BM Customモデルも販売されましたが限定販売だったようです。同じくVOX社から販売のモデリングアンプVOX VTシリーズ旧型バージョンにはAC30ブライアンメイカスタムモードが入っているのでおすすめです。VOXが出しているVOXのモデリングアンプなので再現度は高いはずです。また、ブライアンのAC30は大規模な改良ではないため現行のVOX AC30でも十分近いニュアンスは出せるでしょう。
トレブルブースター
ブライアンもクラプトンやジミー・ペイジ、ジェフ・ベックのようにブースターを使ってアンプをドライブさせる方法を早くから取り入れていました。クイーン結成前からブースターとして使っていたのがRangemasterです。VOX AC30とRangemasterの組み合わせというとロリー・ギャラガーが有名ですが既にテイストのギタリストとして人気だった彼のサウンドが気に入り、実際に本人から使用機材の秘密を聞くことができたようです。
Rangemasterも大変入手が難しいですが多くのメーカーからRangemaster復刻モデル
が販売されています。
AC30とRangemasterの組み合わせはクイーンのデビューアルバムで聴くことがでます。セカンドアルバム『QUEEN II』もRangemasterの可能性がありますが、この前後のツアー中にRangemasterを置き忘れて紛失してしまったようです。
Rangemasterは当時の段階で既に入手が困難だったらしく急遽、新たなブースターを導入する必要がありました。そこでブライアンの父ハロルド氏がRangemasterの回路を元に作ったブースターがBMトレブルブースターの最初の1台のようです。3rdアルバム『Sheer Heart Attack』や前後のライブでこの自作ブースターが使われたようですが、それ以降はブライアンのサウンドエンジニアだったピート・コーニッシュ氏が制作したブースターを使用していくことになります。
ピート・コーニッシュ氏が制作の1台目のトレブルブースターはシリコントランジスタのBC149が使われていたようで音量アップと歪みを稼ぎ、外来ノイズを軽減する良質なブースターです。
ブライアンはステージ上でかなり長いカールコードとシールドケーブルを使っていたためローインピーダンス化するバッファが必要で、このブースターの他に同じくコーニッシュ氏開発の歪みを加えないクリーンブースターTB Extraを2台、直結させていました。
TB Extraは+15dbの音量アップが可能でボリュームコントロールとON/OFFスイッチが付いています。
BC149のトレブルブースターとTB Extraは常時ONで使っておりギター本体のボリュームコントロールでクリーンから歪みまで制御していたようです。
トレブルブースターは83年にアップデートされたようですがBC149が不足しており代わりにBC189Lを使用した若干低出力でマイルドな質感のブースターになったようです。この83年式のブースターをブライアンが大変気に入っており90年代前半のソロ活動まで愛用していたようです。
ピート・コーニッシュ氏はこのブースターをTB-83として市販しました。
先ほどのバッファ、クリーンブースターTB ExtraもTB-83X Duplexとして販売されています。なかなか入手が難しいですがヴィンテージ楽器など中古楽器店などで探すと見つかるかもしれません。コーニッシュ製品検索➡
90年代後半以降はレッド・スペシャルのレストアを手掛けたグレッグ・フライヤー氏が制作したトレブルブースターを使用。2014年以降、最近の来日公演ではKAT社製のブースターを使用しているようです。
ディレイとアンプの配置
Brighton Rockで聴かれるようにブライアンはディレイをとても効果的に使っています。クイーンデビュー時ブライアンが使用していたディレイはマエストロのEchoplex EP-3です。
※ECHOPLEX EP-3 (写真はイメージです)
ジミー・ペイジやヴァン・ヘイレンなどもプリアンプのサウンドが気に入って使用していたと言われるテープエコーの名機です。今でも大変人気があり入手困難ですがヴィンテージ楽器を取り扱う楽器店のサイトなら見つかるかもしれません。
ブライアンはプリアンプとしてでなく通常のディレイサウンドをメインで使っていましたが、3秒ほどのロングディレイをかけることが出来るよう改良を加えていたようです。ライブで初期の楽曲「Doing All Right」のソロを演奏するときにロングディレイを使っていたとインタビューでブライアンが答えています。ちなみに「Brighton Rock」のディレイタイムは1秒ちょっととのことです。
効果的なディレイサウンドを得るためリピート音専用にさらにAC30を追加していました。メインのAC30に加えEP-3を2台、別々のAC30で鳴らすことでリピートごとに別々のアンプが鳴る仕組みです。
メインのAC30はドライ音のみでディレイは掛からないようにすることで歪んでいても濁りのないクリアなエフェクトを作ることができたようです。この辺りのこだわりもエフェクトの名手として大変参考になるものがあります。
接続方法は資料によるとメインのAC30の次に1台目のエコープレックスがつながれていますが当時のAC30にセンド端子があったかは判りませんが無ければ恐らくAC30にアウトプットを増設したと思われます。
※ブライアン・メイのディレイ構成
1台目のエコープレックスに最初のリピートが掛かり、2台目のAC30からさらに次のエコープレックスとAC30へつながれさらにリピートがかかる仕組みとなっています。
合計で3台のAC30を使うことになりますが、それぞれの役割のAC30の上にもさらに2台ずつAC30を積み上げるというのがブライアンのステージ上でのスタイルです。9台ものAC30の壁は見た目にも迫力がありますが通常、音が出るのは最下段の3台のみで上の2段はバックアップ用とのことです。ディレイを使わない場合は1台しか鳴っていないという事になります。写真で見ると実際上段2台の列にはマイキングがされていません。ステージ上でのモニター音量を上げたい場合にもONにされることがあるようです。
当SMALLGARAGEでは上記のようにブライアン・メイがやっていたドライ音とリピート音を完全に分離することのできるディレイ DLY-SR1を開発、販売しています。SEND端子からドライ音専用アンプへつなぎOUTPUTからリピート音専用アンプへ、さらに本体のDRYコントロールでエフェクター内部のを通過する原音成分をカットすればリピート音とドライ音を全く別々に鳴らすこともできます。
他のエフェクターとのパラレル接続も可能です。興味のある方は是非ご覧ください。
その他クイーン初期の使用機材
以上のようなメインの機材に加え時代ごとに変化してきたブライアンの足元の使用機材を見ていきたいと思います。
初期の機材接続順はレッド・スペシャルからRangemasterですが、Rangemasterの前後にワウペダルが繋がれていたと思われます。使用していたワウはJen Crybabyのようです。
(近年ブライアンはストラップに装着して使う肩掛け式のトレブルブースターを使っているのでギター➡ブースター➡ワウの順になりますが当時はブースターも足元に置いていたのでギター➡ワウ➡ブースターの可能性もあります。)初期の楽曲「Great King Rat」のライブでもソロパートでワウサウンドを聴くことができます。ワウペダルは「Great King Rat」でしか使わないためかその後見られなくなります。
ワウの他にはデビュー曲「Keep Yourself Alive」などで聴くことのできるフェイズエフェクターを使っていました。
ブライアンが使用していたのがFoxx Foot Phaserという大変珍しいペダル式のフェイズシフターです。70年代初期に既に販売されていたようで、デビュー曲からフェイズエフェクトを使用している事から初期の段階から導入していたと考えられます。
初期の使用機材をまとめるとワウ、フェイザー次にメインのAC30、そしてエコープレックスEP-3からEP-3のリピート専用AC30というブライアンならではの接続となっています。
70年代から既にAC30、3台の三段重ねの計9台が見られますが最も初期の頃はメインとリピート用で2台三段の計6台だったようです。リピート音のクリアさが求められ早くから9台体制へと移行した模様です。
これらに加えてブライアンが当時から使用していた細かな道具類ですが、ピックには通常のギターピックではなく6ペンス硬貨をピックとして使っているのは有名な話です。
6ペンスコインはイギリスでは既に旧硬貨のため製造されていませんが古銭として日本でも入手することができるようです。購入可能な6ペンス硬貨⇒
ブライアンが使用していた弦はRotosoundのもので009から042のゲージを使用していたようです。
ROTOSOUND R9 Roto Pinks NICKEL SUPER LIGHT 9-42 エレキギター弦
初代ペダルボード(70年代~82年)
足元のペダル類は当初床にそのまま置いていたようですが70年代中盤からはこれまでの機材をまとめた初代ペダルボードが見られるようになります。ブースターはRangemaster紛失後コーニッシュ製トレブル・ブースターへと移行しTB Extra Duplexも見られるようになります。
その頃撮影された取材写真と資料によると接続順は
ギター➡トレブルブースター➡TB Extra Duplex➡FOXX Foot Phaser➡AC30①(メイン)➡エコープレックスEP-3①➡AC30②(リピート用A)➡EP-3②➡AC30③(リピート用B)という構成のようです。ペダルボード上の左側のスイッチ2つはエコープレックス2台のON/OFFスイッチです。
TB Extraは当初個別の2台をテープで止めて直結させていましたが、その後コーニッシュ氏が2台を1つのケースに収めたTB Extra Duplexを開発したためこれに置き換わった模様です。
この他の機材としてはコーラスBOSS CE-1とアルバム『News of The World』ツアーから楽曲「Get Down Make Love」のソロ部分で特殊なエフェクトを加えるためのペダル式ハーモナイザーがボード外に追加されました。市販はされていない特注品のようです。
ブライアン・メイといえばハモリのリードプレイ、ギター・オーケストレーションが有名ですがスタジオ音源で聴くことが出来るのはオーバーダビングによってハーモナイズを生み出しているはずなので、このペダルハーモナイザーは特殊効果用でありエフェクターによるハーモナイズは本人もインタビューで否定しています。
しかしこの後もペダルハーモナイザーはボードに組まれ続けるので1曲だけのためとは思えません。大幅な改良により特殊効果だけでなくオーケストレーション用ハーモナイザーとしてライブでも使えるようにしたのかもしれません。ハーモナイザーの接続位置はエフェクト効果の効率性とライブ時の写真などから想像するとTB Extra Duplexの出力からハーモナイザーへ繋がれフェイザーの入力へ戻ってくる経路だと思われますがどうでしょうか。
70年代後半のブライアン・メイ使用機材をまとめると以下のようになります。
BOSS CE-1も大幅な改良が加えられていたようです。接続位置はメインAC30①の直前に繋がれていたと思われます。
82年~Pete CORNISHペダルボード
82年のヨーロッパツアー終了後にペダルボードを含めた機材システムの大幅アップデートが施され、初代ボードにセットされていたエフェクター類はピート・コーニッシュ制作のペダルボードシステム内に全て組み込まれることとなりました。このピート・コーニッシュ製ペダルボードシステムは個々のエフェクター回路基板を抜き出し一つの大きなケース兼ボード内にまとめると言うものです。ブライアン・メイに限らずピート・コーニッシュ製ペダルボードシステムを採用するアーティストも増えました。
以下がコーニッシュ製ペダルボードのイメージイラストです。
※コーニッシュペダルボードイメージ図
トレブルブースター、TB Extra、コーラス、フェイザー、ハーモナイザーなどディレイ以外は全てこのボード内に組み込まれています。初代ペダルボードには無かったチューナーBOSS TU-60が追加されました。
ツマミの表示と設定位置なども資料から確認できたので再現してみましたが実際にこのセッティングで演奏されたかは分かりません。
もともと常時ONでスイッチ、ツマミ不要のTB1トレブルブースターはパネル上の操作類はありませんがギターからの入力直後に組み込まれているのは間違いないでしょう。そのほか接続順はボード内部にすべて組み込まれているので判りにくいのですが、初代ペダルボードから推測するとトレブルブースター➡TB Extra Duplex➡ハーモナイザー➡FOXX Foot Phaser➡BOSS CE-1➡AC30(メイン)➡ディレイとリピート用のAC30二台へと言う感じで基本的な構成は変わっていないと思われます。
ハーモナイザー用ペダルの上側に8つの点のようなものが見られましたがハーモニーエフェクトを各音程ごとにドライバーなどを使って調節するトリムツマミではないかと想像しますがどうでしょうか。
ディレイのON/OFF用Echo AとEcho Bスイッチの上部は蓋になっていてセンド、リターン機能が備えられていたようです。
ボード左上の表示から分かるようにS1はトレブルブースト(TB1)のアウトプットでここからボード外部へ出力でき、TB EXtra Duplex(TB2)のインプットR1からボードへ再入力する仕組みのようです。(トレブルブースターとTB Extra Duplexの間に臨時のエフェクターを挿入可能)
同様にフェイザーのアウトプットS2からボード外へ出力、コーラスのインプットR2からボードへ再入力できるようです。(フェイザー、コーラス間も外部エフェクターの挿入が可能)
85年の来日公演では、このセンド・リターンにオートワウのIbanez AF9が繋がれているのが確認できます。
接続位置はハーモナイザーもフェイザーもTB Extraの次に接続されていることからS2-R2の間ではないかと想像します。揺れものペダルは同時にONにはしないはずなのでこの位置で問題ないと思われます。
Ibanez AF9は80年代の前半に製造されていましたが現行品としてはMAXON AF9として同じ機能のものが入手できるようです。
S1-R1、S2-R2間に何も繋がない場合は直結されていたと思われます。
82年はペダルボードアップデートのみならずシステム全体のアップデートがはかられました。
まず、この時期になると初代システムの頃より会場も広くなりシールドケーブルもさらに長くする必要があるためギターからの信号劣化が問題となります。そこでローインピーダンス化を図るためのバッファとしてストラップ装着式のLine Driverが開発されました。
ギターの信号は短いケーブルでまずこのLine Driverへと接続されます。Line Driverの出力はノイズ対策と電源供給のためXLR端子となっておりここからXLRカールコードによってペダルボードのインプットへとつながれます。
ディレイには、このピートコーニッシュ製ペダルボードが導入された当初はまだエコープレックスEP-3だったようですが85年までにはMXRのラックタイプDelay System IIへと変更されました。
MXR DELAY SYSTEM II
MXRディレイへの変更後には更にノイズリダクションのロックトロンHush II Cも追加されたようです。同じくクラックタイプなのでディレイの前後にノイズリダクションを入れていたと思われます。
ROCKTRON Hush II C
ペダルボードはコーニッシュ氏開発のルーティングユニットとも特殊なマルチコアケーブルで接続されており電源の供給と安定動作、並びに複数のエフェクター、アンプをバックステージ側からも制御できるようになっていたようです。このルーティング・ユニットやペダルボード、アンプ、ディレイ類を安定して動作させるための電源供給システムとしてアイソレーション・トランスフォーマーとパワーディストリビューターが導入されました。これらをまとめると以下のようになります。
ここまでがQUEENオリジナルメンバー時代のブライアン・メイの機材です。この後はブライアンのソロ活動や新生QUEENでの活動になっていきますが時代を経るにつれ新たな機材やシステムが導入されていきます。それでもブライアン・メイサウンドの軸となる基本部分は受け継がれていきます。ソロ活動以降の使用機材は次回また解説していきたいと思いますのでお待ちください。
- カテゴリー
- アーティスト別ペダルボード研究